親であれば誰しも「困難な時も力強く自分の人生を切り開いていってほしい」と子どもに望むのでないでしょうか。コロナ禍にある今、その思いは一層強くなっていますよね。でも、
一体どうすればそのような人に育ってくれるのか?
そのために今何をすべきなのか?
普段の子育ての中で、「具体的に何をすればいいのか」を考えるのはなかなか難しくありませんか?
その指針となる答えが名著「アイデアのつくり方」の中にありました。
1939年にアメリカの大学院の講義で紹介されたこの小冊子は、1988年に日本で出版され、古典として今も読み継がれています。著者ジェームズ・ヤング氏は、広告業界で伝説的な存在の方ですが、その内容は普遍的であり、すべての人が役立ててられるエッセンスとして書かれています。
この記事ではその内容とともに、思考力を高め、生きる力を養う子育てへの活用方法をお伝えしたいと思います。
コンテンツ
「アイデアのつくり方」ってどんな本?
あなたは「アイデア」という言葉にどんな印象を持っていますか?
閃くもの?
どこからか降ってくるもの?
アイデアマンと呼ばれる人が持っている特殊能力のようにも捉えられがちですが、この本では、誰でも持てる能力・スキルとして、アイデアを生み出す方法を教えてくれています。
アイデアって何?
そもそも、アイデアとは一体何なのでしょうか??
ヤング氏はアイデアの原理を次のように表しています。
- 既存の要素の新しい組み合わせである
- 事物の関連性を見つけ出すことが肝要である
要するに、アイデアは何もないところからひねり出してくるものではなく、すでに持っている知識・情報の組み合わせに関連性を見つけ、そこから今までになかった概念を思いついたり、新しい方法・新しい物の種を発見することなのです。
スタンフォード大学でのスティーブ・ジョブズ氏の有名なスピーチの中にも、その例を見ることができます。
ジョブズ氏はスピーチの中で、大学を中退した後、内緒で潜り込んで受けたカリグラフィの授業で学んだことが、いかにマッキントッシュ・コンピューターを作るために役に立ったかということを話しています。
今でこそ、字体そのものが視覚的に及ぼす影響力やデザインの重要性が認知されてますし、用途に合わせて様々なフォントが選べることは当たり前です。ですが、当時パソコンで打たれるフォントそのものに意識を向けるコンピューターの開発者はいませんでした。
ジョブズ氏が初めてカリグラフィの知識をコンピューターと組み合わせることを考えついた人です。
今まで誰も思いつかなかった組み合わせから生み出された、新しい価値がアイデアなのです。
アイデアを生み出す公式
「アイデアは既有の要素の組み合わせ」という原理がわかっても、実際にはどうやって生み出したらいいかは、まだわかりませんよね。
でも、大丈夫です。本書には、アイデアを生み出すためのプロセスも示されています。アイデアには、それを生み出すための「公式」があるんです。
それは次の通りです。
- アイデアの素となる資料を集める
資料の種類は2種類
①特殊資料:知りたいことに関連する事柄
②一般資料:あらゆる方面のすべての事柄 - 集めた素材を様々に組み合わせたり、色々な角度から考えたりする。
- 考え抜いた後一旦手放して寝かせておく
- アイデアが湧く
- 実際に使えるようにアイデアを磨く
シンプルなステップですが、これだけではまだ使いづらいかもしれません。
実際にどのようにすれば、これを子育てに応用して思考力を伸ばせるのか、ご説明したいと思います。
でもその前に、どうしてアイデアを産み出さなければいけないのか、アイデアメーカーになるとどんなことができるようになるのか、メリットがわからないままではやる気も出ません。
まずは、アイデアがなぜ生きる力に必要なのかをお話しさせてください。
アイデアメーカーが叶えられる夢
新しいアイデアを生み出せる人たちは、自分の経験や知識・人脈も含め、全てを必要に応じて今に活かすことができる人です。
- 今までは関心が向けられていなかったもの
- 目線を変えれば別の使い方ができるもの
- もっと便利に・簡単に・短時間で目的を達成できるもの
- 困っている人・問題を解決するもの
今をより良くしたり、今までなかったものを考え出せたりすると、人々の関心を引くような新商品・新発見・新サービス・劇的な業務改善につなげることができます。
例えば、2016年に伊勢志摩サミットで各国首脳にお料理をお出しした、志摩観光ホテルの総料理長である樋口宏江氏は、先々代料理長から料理以外の技術や歴史など、目先の料理だけではない部分も勉強しなさいと日々言われていたそうです。
実際、樋口シェフは常に自分の足で歩き、現地や生産地を回り生産者さんと話し、素材だけでなく、その背景や由来・歴史などについても興味を持って学ぶと言います。
幼少期の畑での野菜との出会い、お母様とのお菓子作りなどそれまでに蓄えた様々な経験や知識・思いから、新しいひと皿のアイデアが生まれます。
自分の専門的な知識はもちろん大切ですが、出てくるアイデアに深みと意外性をもたらすのは、実は一般資料と呼ばれる興味の赴くままに集めた他分野の知識です。
アイデアはクリエイティブと呼ばれるお仕事をしている人だけが必要なわけではありません。
- 困った状況に陥った時、どうすべきか打開策を講じられる
- ある出来事を多角的な視点から捉え、自分なりの見解を導き出す
- 柔軟な思考で自分の生活の質を向上できる
どこで何をしていようと、好奇心旺盛に幅広い関心や知識欲を持ち、様々な経験からも学びながら、見つけたアイデア生活に活かしていく術は、自分らしく人生を切り開いていくために役に立つのです。
ただ残念なことに、アイデアの公式がわかっていても「今日からすぐにアイデアマン!」というわけにはいきません。
アイデアを生み出すという経験を積み重ねるトレーニングが必要です。
いろいろなものに興味を持って知識と経験を増やし、その蓄積がアイデアのための材料となります。そして集めた材料について考えたり親しんだりする時間も必要です。
アイデアマンは1日にしてならずということです。しかし、アイデアを生み出す方法が身につけば、一生のスキルとして使い続けることができます。
また、クリエイティブな発想力があれば、人生が楽しくなること間違いなしです。
どのように育てればアイデアメーカーになれるのか?
アイデアの素材集めが上手なのは小さな子どもたちです。「なんで?」「どうして?」という好奇心と疑問に溢れた日々を過ごし、グングン新しいことを吸収します。
でもいつしか「自ら進んで行動しない」「やりたいことが見つからない」といった消極的な我が子に悩むお母さんが出てきます。
好奇心旺盛に色んなことにチャレンジして、自ら考える子に育ってほしいなら、そうなるように接しなければいけないし、環境を用意する必要もあります。
そして子どもの頃の思考体験・実体験は、大人になってから花開くものも多いものです。
特に好奇心や発想力は子どもの時にこそ伸ばしておきたいものなのです。
成長するほど思考パターンは固まってきてしまうからです。
興味と好奇心を育てるための親の声がけ
子どもたちだって日々色んなことを考えています。大人目線では「コラァッ!」と怒りたくなるような場面だって、子どもにとっては重要な発見や面白いアイデアを見つけている最中ということもあります。
例えば、子どもは水をジャージャー出しっぱなしでお風呂で遊ぶのが大好きです。それはお金もかかるし、実際もったいないというのも事実でしょう。
でも、落ちてくる水を受けることで、水は痛い・重いという感覚を発見したり、筒の中の水が物を押し出すことで水の体積について考えたり、表面張力が物を滑るように移動させることを見つけたりします。
楽しいこと、自分で発見したことは記憶にも残りやすく、生きた知識として脳に蓄えられていきます。
その知識・経験が、工作を作る時に活用されたり、アカデミックな勉強をする時に概念を理解をするために役立ったりします。周辺の知識が増えるにつれて、使える思考材料も増え、さらに新しいアイデアへと発展させていきます。
だからと言って「毎日毎日水を出しっぱなしにして遊んでもいいですよ。叱ってはいけません。」と言いたいわけではありません。
「ああ今、色々考えているんだな」とか「この子、将来有望になるわ」とお母さんが思っているだけで、子どもに話しかける声のトーンや内容が変わってくることをお伝えしたいんです。
話しかける言葉が変われば、子どもの受け止め方が変わります。
子どもの思いを損なわないことは「面白そうだからやってみよう」という気持ちを育てるためにも大切なことです。
危険を回避する判断は大切です、でも「叱られるからやめておこう」とブレーキを利かせ過ぎてしまうのも考えものです。
だからこそ、お母さんの声の掛け方が重要になってくるんです。
是非子どもに、挑戦したくなる声がけ・心に響く言葉がけを意識してやってみてくださいね。
アイデア発見のためには、その素材についてトコトン考え抜く
「アイデアを発見するための素材集め」と聞くと、美術館や水族館など外に連れて行ったり、旅行に行ったりと何か大きなことをしなければいけない、と思うかもしれませんね。
もちろん、普段と違う行動や体験は刺激的で、感動するような心が動く出来事はたくさんあった方がいいでしょう。
でも家の中でだって、色々なことができます。
料理は一番身近な科学ですし、電化製品や一般的な家事の中にも知らないこと・面白いことはたくさん見つけられます。
例えば卵について考えてみます。
- 卵の黄身はなんで黄色いの?どうして白身は茹でると白くなるの?
- ケーキがふわふわなのは何で?
- 卵の殻は何でできてるの?どうやって雌鳥は卵の中に赤ちゃんを入れるの?
- ひよこは卵の中で何をしてるの?どうして卵から出てこられるの?
- どんな卵でも温めるとひよこが出てくるの?
卵ひとつとっても、考え出したらキリがありません。
1つのものを色々な角度から見たり、さらに他のジャンルに繋げて興味を広げたりすると色々な発見ができます。そして知識も深く広くなっていきます。
そのうち「卵」と別の何かが合わさった面白いアイデアが生まれるかもしれません。
知識を深め、興味の幅を広げるために、図鑑やインターネットを活用するのもいいでしょう。
興味を持たせやすくするためにDVD図鑑もあります。なかなか見ることができないものにも触れられるのでオススメです。
でも、できるだけ実際に触れて、知識と本物をリンクさせることを意識してみてくださいね。
自由な発想のために拡散思考力を鍛えよう
自由な発想力を意識的に伸ばすには、そのための思考力を鍛える必要があります。
思考力には内向き・外向きの2方向のものがあります。
内向きのものは集中思考。論理的な思考に必要です。正しい結論を見いだしたり、推理したりします。
そして外向きのものは拡散思考。新しいことを思いついたり、自由に伸び伸びと考えを広げていきます。
考えを1つに統合していく集中思考と新しいことを次々に発想していく拡散思考、どちらも大切な思考力ですが、アイデアを生み出すためにも使われ、意識して伸ばしたいのは拡散思考です。
なぜなら、集中思考は求められる場面も多く、普段からよく使う思考力だからです。年齢が上がって学校で求められる学習もこちらの思考力を伸ばすものが強くなっていきます。
「何でそんなこと思いつくの?」という面白いアイデアを出せる子は、拡散思考力が身についているというわけですね。
拡散思考力の育て方
拡散思考は、1つの事柄から色々な考えを出していくことでその思考力を育てます。
例えば、
- 4つの正方形のピースを繋げてできる形をたくさん考える(図形の組み合わせを拡散思考をする)
- 冷蔵庫の中の白いものをたくさん考える(条件に合うものを拡散思考する)
- タコと船の共通点をたくさん思いつく(分類観点を柔軟に変えることを拡散思考する)
- どちらの獲得カード枚数が多いか、数える以外の方法を色々考える(方法を拡散思考する)
このように、答えが決まっていないものを思いつくままに自由に考えることで、拡散思考する力を養います。「もうこれ以上ない…」となってからさらに考えだそうとすると鍛えられます。
答えが決まっているもの、1つの方向に向かって思考するものなど、脳を柔軟に使って考える機会が少ない遊びに偏ると、この思考力は育ちにくくなります。
レゴでも見本の通りに作ることは集中思考になります。でも、見本で学んだギミックをオリジナルの作品に生かして新しいものを作りだすことは拡散思考になります。
家にあるおもちゃも使い方を変えると、拡散思考的に使うことができるようになります。子どもがどんな遊び方をしているか、一度気にかけて見てみるといいですね。
普段から拡散思考できる遊びや問いかけを取り入れてみてください!
アイデアが出てくるのは脳がリラックスしている時
最後に大事なことがあります。
アイデアは散々触れたり考えたりした後、一度寝かせて放っておく期間を作る必要があるとヤング氏は説いています。そしてある時「あっ!閃いた!」という瞬間が訪れるのです。
一度手放す理由は「あっ」という瞬間を作るためです。
あれこれ思いを巡らせて四六時中そのことばかり考えていても、実際のアイデアは、シャワーを浴びている時、ブラブラ歩いている時、目覚めの夢心地の時など、リラックス状態のふとした時に出てくるのです。
子どもも、お稽古やお勉強でぎゅうぎゅう詰めの時間の中にいては、脳ミソが休息することができません。
楽しいことをしている時、ボーッとしている時、面白いことを考えつくのはそんな時なんです。
日々の時間の使い方を一度振り返ってみてくださいね。今の子どもたちは忙しすぎるかもしれません。集中する時・楽しむ時、バランスよく時間を使って脳の働きもよくしてあげたいですね。
お母さんも同じです。やらなきゃいけないこと・イライラすることに心を奪われないで、穏やかに過ごす時間があると、案外いいアイデアが浮かぶものです。
子どもだけでなく自分自身がより良く生きるためにも、アイデアが出てくる状態を作ることはオススメです。
まとめ
好奇心旺盛に様々な方向に興味を持って知識を吸収していくこと、
持っている知識から自由に発想する思考力を育てることがアイデアをつくるためには必要でしたね。
シンプルに言えば、
知ることは楽しい。
考えることは楽しい。
そのことを知っていて、日々実践している人がアイデアメーカーになれるということです。
子育ては未来の担い手を育てる仕事です。すばらしいアイデアで生きる喜びのあふれる世界を作っていってくれるよう、私たち親はできるだけのサポートをしていきたいですね。
アイデアづくりの原則がわかる「アイデアのつくり方」、是非一度お手に取って読んでみてくださいね。
大変な時も解決法を見つけて乗り越えていってほしい